新開地 2021.5.7

近づいてくる。嫌な予感。思ったよりまだ風が冷たい。雨が上がって、二日酔いで動かなかった分をたまには、と外を散歩に出て、商店街を南へ抜けた駐車場の横で立っていると向こうから老人がこちらに歩いてくるのが目に止まる。そのままやはりまっすぐ来て話…

キリギリスとコオロギに ジョン・キーツ

地上の詩は決して死なない すべての鳥たちが灼熱の太陽に滲んで消え 冷たい木々に隠れるとき、〈声〉は響き渡るだろう 刈り立ての牧草地を巡る生垣から The Poetry of earth is never dead: When all the birds are faint with the hot sun, And hide in coo…

ソーダのアイスバー 21.4.19

世界を理解するならまず植物図鑑から買わねばなるまい。歩く道に生えている草や花、その名前すら知らないということに突然わたしはショックを受けた。わたしは毎日見ているものの名前すら分からないのだ。既知から未知へ。世界は手袋をひっくり返すように裏…

犇 21.4.18

見てみい。これ。この漢字。犇。ひしめく。ひしめいてるねえ、牛が三匹。二匹でも〈ぎゅうぎゅう〉やねんから、それ以上。ぎゅうぎゅうぎゅう、で、犇。わ! またワシ、上手いこと言うてもうたわあ。ウシちゃうで、ワシやでえ、わっはっは! と笑うワシはも…

酒と月 21.4.17

何日も降り止まない雨のせいで、外に出るのも億劫になった酒は、朝から自殺を飲むことにした。閉めきれていないカーテンの隙間から巨大な鈍い灰色の目が見えた。それがなにか悪いものではないことを酒は知っていた。目はただこちらを見つめてくるだけだ。そ…

ゴーストタウン 21.4.16

花を生ければ花は枯れ、魚を飼えば海老も死に、なにもやってもうまくいかず、やけになっていたところにコロナ、疫病の蔓延、大いなる災厄が世界に降りかかり、なんだかもうすべてがどうでもよくなってしまった僕は書を捨てずに街を捨て、いわゆるゴーストタ…

歯医者 21.4.13

歯医者に行っても泣かないように、あの金属音に慣れるために毎日家でルー・リードの『メタル・マシーン・ミュージック』を聴いた成果はぜんぜん発揮されず、いったいなんでこの俺が、と顔に布を被せられた状態で、SM、まるでSM、器具による拷問、辱め。涙と…