新開地 2021.5.7

近づいてくる。嫌な予感。思ったよりまだ風が冷たい。雨が上がって、二日酔いで動かなかった分をたまには、と外を散歩に出て、商店街を南へ抜けた駐車場の横で立っていると向こうから老人がこちらに歩いてくるのが目に止まる。そのままやはりまっすぐ来て話しかけてくる。ノー・マスク。わたしの意識に少しだけ警戒という言葉が現れる。いざとなれば動けるはず。敵意はない。老人。小柄で痩せがた、黄色のシャツと灰色のズボン、おそらく酒毒で浅黒くなった肌、目やにが両方にこびりついていて、唇は乾燥している。

ボートレースはやってますか? すぐそこにあるボートレース場が意識に浮かぶ。そうだ、この町はボートレース場が中心にある町なのだ、という記憶が引き出される。だがわたしはボートレースには行かない。

すいません、分かりません。

どうなんですかね、ああ、あれ、閉まってますよね? たしかに閉まっているように見える。時間も夕方六時、閉まっているだろう。

閉まってますね、ええ。

そうかあ。老人は苦笑いする。

遠くから来られたんですか? ボートレースのために、わざわざこの町に来たのかと思ったので、そう聞くと、パチンコです、と老人が言う。パチンコでね、負けましてん。ほんでその分をね、取り返したろ思て。わたしは、おどけた表情を作る。パチンコでね、ぼろ負けですわ! だからね、取り戻したろ思とったんですけどねえ。

老人は笑顔のままで去っていった。